下地から仕上げまでの一貫管理で
「短時間」に「静か」な床改修を実現
もくじ
ターミナル駅のコンコース床を営業しながら全面改修
2019年春、西武新宿線のターミナル駅、西武新宿駅が装いを新たにした。一年がかりの全面リニューアル工事で駅のデザインを一新。外国人観光客の増加も踏まえつつ利便性や快適性を高め、同路線の魅力を分かりやすく発信する駅に生まれ変わった。刷新されたコンコースの床には、最近、国内の鉄道駅でも使われ始めた「ゴム系床材」を採用。短時間の夜間工事に対応できる速硬性の塗り床との組み合わせで、騒音や振動、臭いの最小化、確かな耐久性などが評価された。歩行感のよさや、豊富なカラーバリエーションも採用の決め手となった。
名称 |
西武新宿線 西武新宿駅 コンコース床改修工事 |
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所在地 |
東京都新宿区歌舞伎町 |
発注者 |
西武鉄道株式会社 |
設計者 |
フレームデザイン株式会社 |
施工者 |
西武建設株式会社 |
改修規模 |
約1900m2(改札内・外コンコース床) |
仕上げ |
既存磁器質タイル上に合成樹脂系塗り床材ケミクリートMS・L+合成ゴムタイル パターン貼り、黒部(5174):ノラメント926 arago(アラゴ)/3118、白部(5109):ノラメント926 satura(サチュラ)/1880 |
施工期間 |
2018年4月~19年3月 |
「他の鉄道会社の人たちなどがけっこう見学に来ているようです。鉄道駅の床の改修は大変なので関心が高いのかもしれません」。そう話すのは、西武新宿駅のリニューアル工事を担当した西武鉄道鉄道本部工務部建設事務所担当所長の川田武氏だ。
関心を集める理由の1つは、鉄道駅コンコースの床に、ゴム系床材を採用した点にある。連日、早朝から深夜まで人の流れが絶えないコンコースの床と言えば、石やタイルが定番だ。一日に18万人以上が利用する同駅のコンコースも、リニューアル前はタイルだった。
現在の西武新宿駅は、1977年に完成した地上25階建ての西武新宿駅ビル内にある。同ビルは、商業施設の西武新宿PePe(ペペ)に、新宿プリンスホテルが併設されている構成。その2階部分を長さ100mあまりの駅コンコースが貫通する。
24時間稼働のホテルにも配慮、音・振動・臭いを抑える床材選び
ホテルや商業施設と一体のターミナル駅という難しさもあり、これまで全面的なリニューアルは実施してこなかった。しかし、「近年、外国人観光客が増加してきたこともあり、東京五輪・パラリンピックを控えたこの時期にリニューアルに踏み切りました」と川田氏は話す。その一環でコンコースの床も一新した。
ターミナル駅の工事は多くの制約との闘いだ。まず時間の制約がある。西武新宿駅の場合、工事ができるのは終電から始発までのうち実質3時間程度。採用する材料・工法には、短時間で施工を終えるだけでなく、始発までにコンコースを利用者に開放できる速効性が求められた。
さらに、同じビル内に24時間稼働するホテルがあることも、材料・工法を選択する大きな要因となった。「工事に伴う音や振動、臭いなどの発生を極力抑えられる材料・工法が必要でした」と川田氏は説明する。
養生手間がなく利用者に開放、夜間に仕上げ工程を繰り返す
そこで課題になったのが、既存の床材がタイルだった点だ。従来ならば、古い床材を撤去し、新しいタイルに置き換えるのが一般的だ。しかし、タイルをはつれば大きな音や振動は避けられない。新しい床材を張るまでの仮設養生も必要なため、工事期間の長さや工事費がネックになった。「ほかによい材料はないかと検討して行き着いたのが、既存の床をはつらずにゴム系床材で仕上げる工法です」(川田氏)。
採用したのは、エービーシー商会の合成ゴムタイル「ノラメント」と、速硬性塗り床材「ケミクリートMS・L」の組み合わせだ。既存の床を撤去せず、その上から施工できるのが大きな特長。ノラメントの意匠性も魅力的だ。
西武新宿駅のコンコースの床改修は、次のような工程で進めた。まず既存の誘導タイルをはがして仮設のものに置き換えた。その後、既存の床タイルの上に、ケミクリートMS・Lを施工して床全体を平らに均した。最後にノラメントを張って仕上げた。
ケミクリートMS・Lは、低臭で一般的な塗り床材に比べ硬化が速く、そのまま仕上げ床としても使える。施工後1時間程度で硬化するので、深夜に施工したケミクリートMS・Lのまま、始発の時間に利用者へ開放することができた。そして、後日の夜間工事で、意匠性のあるノラメントを張って仕上げるといった工程を繰り返し行った。
終電・始発間の実質3時間で施工
養⽣の⼿間もかからず1時間で歩⾏可能
施⼯途中でも開放しながら改修
改修前の西武新宿駅コンコース。1977年に現在の駅が完成して以来、タイルの床だった
写真の⽩いところが、既存床の上に「ケミクリートMS・L #5414」で均した箇所。施⼯後1時間程度で硬化するので、始発の時間にはそのままの状態で利⽤者に開放した
仕上げ材の「ノラメント」を段階的に張っている状況。⽬地がないため汚れが付着しにくく、清掃の負担も軽減される。ケミクリートMS・Lとノラメントは、それぞれ厚さ3mm、3.5mm。計6.5mmなので床端部のすり合わせもしやすい
床改修の手間と気遣いを軽減、キャリーケースの騒音も解消
「音や振動はほとんどなく、塗り床材の臭いも問題ありませんでした。仮設の養生など工事にまつわる様々な手間や気遣いが大幅に軽減されました」と、川田氏は振り返る。
高い耐久性が求められる鉄道駅のコンコースでゴム系床材の実績はまだ多くない。西武鉄道では、東京モノレール浜松町駅の改修実績を参考にしたほか、耐摩耗性などの性能を確認して採用を決めた。
「固くない床材の採用はチャレンジでしたが、何ら問題なく利用できています。ゴム系床材は歩行感がよく、近年増えているキャリーケースを引く音も解消されました」と、川田氏はその効果を語る。
床改修のポイント
下地から仕上げまで、多様な要望にトータルで応える
速硬性にすぐれた「ケミクリートMS・L」を下地処理に使用し、合成ゴムタイル「ノラメント」で仕上げることで、既存の床をはがすことなく通常営業を続けながら床改修が可能。世界中の駅や空港に数多く採用され、高い耐久性を有する「ノラメント」は、ゴム系床材ならではの弾性があり、歩行感がよい床をつくれる。カラーバリエーションも豊富で、空間の印象を左右する床を様々にデザインできる。
- 採用された商品
日経アーキテクチュア 2020年1月9日発行号掲載内容