エキスパンションジョイント(Exp.J.)とは?

Exp.J.はどこにある?

大型建物の内外をよく見て歩くと、必ずと言ってよいほど、どこかにエキスパンションジョイント(Exp.J.)を見つけることができます。例えば、外壁を縦に走る金属板の帯や、内部廊下の床・壁・天井の4辺をぐるりと輪切りにするような金属板の帯――。ほとんどの場合、それらはExp.J.です。

建物外部のExp.J.

建物外部のExp.J.

建物内部のExp.J.

建物内部のExp.J.

エキスパンションジョイント(Expansion Joint)は、日本語で「伸縮継ぎ手」と訳されています。文字通り、伸び縮みする継ぎ手のことです。
なお、実際の設計では省略した表現方法としてExp.J.やExp.J.C.が使用されていますが、このコラムでは特に区別せず、「Exp.J.」で統一して表記します。(※)

Exp.J.で最も多く見られるのは、アルミやステンレスによる金属製ですが、最近ではボード材を内蔵できるExp.J.や、樹脂素材を用いてデザイン性や可動性を重視したExp.J.など、選択肢が広がってきました。

ボード内蔵型のExp.J.

ボード内蔵型のExp.J.

樹脂素材のExp.J.

樹脂素材のExp.J.

規模が大きかったり、変形プランだったりする建物は、隙間を挟んで複数の躯体に分けて設計するのが一般的です。躯体を分割することで、地震などの外力の働きで建物が受けるダメージを最小限に抑えることができるからです。
この隙間を「クリアランス」と呼び、さらにその隙間をつなぐのがExp.J.です。

2つの建物に設置されるExp.J.

2つの建物に設置されるExp.J.

地震発生時などには、クリアランスを挟んで隣り合う躯体はそれぞれ異なる動き方をします。Exp.J.は、その動きに追従したり、クリアランスに生じる歪みを吸収したりして、建物全体の機能を維持することを目的としています。例えて言えば、鉄道の車両間に設置された連結部分のようなイメージです。

プランニングにも影響するExp.J.

建物が完成してしまうと、あまり意識されることはありませんが、Exp.J.は建物の利用や安全確保のうえで欠かせない建築部材です。
構造躯体の分け方や、クリアランスの寸法の設定などは、建物のプランニングに大きく影響します。同時に、Exp.J.を取り付ける位置や幅などを決める要因にもなります。ですから、建物の設計では、プランニングや構造計画を詰めていくなかで、「この場合、Exp.J.はどうなるだろうか?」という意識を持つことも重要です。

どんな建物でExp.J.が必要?

分離された建物を一体化

Exp.J.の働きは、大きく2つあります。1つは、クリアランスを介して建てられる複数の構造躯体を、一体的に利用できる建築空間としてつなぐことです。
もう1つは、分かれて建つ構造躯体に、それぞれ異なる動きが発生しても、それに追従し、吸収する働きです。躯体の動きには、地震時の変形や、温度変化による伸縮、強風時の動きなどが挙げられます。

構造特性の異なる躯体をつなぐ

そうした働きを持つExp.J.を必要とする建物は、大きく3つに分類できます。
1つめは、構造的な特性が異なる複数の躯体を一体化する建物です。例えば、階数が極端に違う2棟の一体化、鉄筋コンクリート(RC造)と鉄骨(S)造の躯体の一体化、異なる基礎や杭に載せた躯体の一体化などです。

振動特性が異なる建物

隣接する建物の階数が極端に異なる

隣接する建物の階数が極端に異なる
構造計算が異なる建物

RC造と鉄骨造など、各建物の構造計算が異なる

RC造と鉄骨造など、各建物の構造計算が異なる
基礎が異なる建物

基礎や杭の異なる建物は、振動特性や変異量が異なる

基礎や杭の異なる建物は、振動特性や変異量が異なる
重量配分が異なる建物

構造の違いなどで重量が異なると、振動特性や変異量が異なる

構造の違いなどで重量が異なると、振動特性や変異量が異なる
温度変化の大きい建物

鉄骨造など夏冬の温度変化の影響を受けやすい

鉄骨造など夏冬の温度変化の影響を受けやすい
増築する建物

増築部の建物は、既存建物と基礎が異なる

増築部の建物は、既存建物と基礎が異なる

複雑な平面形や長大な建物でも

2つめは、複雑な平面形や、平面が長大な建物のケースです。複雑な平面形の典型例は「L字形」です。地震時の揺れが複雑になるので、整形な躯体に分けてシンプルな構造とし、それぞれの隙間をExp.J.でつなぐケースがよく見られます。
また、平面が長大な建物は、不均質な地盤や、熱による伸縮を大きく受けやすいので、適切な箇所で躯体を分けるのが一般的な設計方法です。

平面形状が複雑な建物

L字などの平面形は、地震時の揺れの方向が複雑になる

L字などの平面形は、地震時の揺れの方向が複雑になる
長大な建物

平面的に長い建物は、地盤や熱収縮の影響を受けやすい

平面的に長い建物は、地盤や熱収縮の影響を受けやすい

急増する免震建築でも

そして、3つめは「免震建築」です。免震建築の場合、地震の揺れを減衰する免震構造の部分と、地盤面や非免震部分とが取り合うためExp.J.が欠かせません。他の建物と異なり動きが大きくなることから専用のExp.J.を用います。

免震構造の建物

免震構造物と地盤面とでは、振動特性や変位量が異なる

免震構造物と地盤面とでは、振動特性や変位量が異なる

隙間をどのようにつなぐ?

隙間の外側を切れ目なく

躯体間のクリアランスをつなぐといっても、どのようにつなぐのでしょうか?
まず、基本として理解しておきたいのは、クリアランスの「屋外側」「屋内側」の双方にExp.J.を取り付けるという点です。

屋外側のExp.J.と屋内側のExp.J.

屋外側のExp.J.と屋内側のExp.J.

屋外側のExp.J.は、躯体のつなぎ目となるクリアランスを、建物の外側からぐるりと、切り目なく巡らすものです。このExp.J.は、外壁や屋根、屋上などと同じように、雨風や火災などから建物を守る機能も求められます。
ひと口に屋外側と言っても、細部にまで目を配ると、部位は様々で、凹凸もあります。外壁や屋根、屋上といった面のほか、バルコニーや屋上パラペットのような出っ張る部分などもあります。また、それぞれの取り合いは、出隅や入隅になったりします。
屋外側のExp.J.は、そうした凹凸や出っ張りなども含め、クリアランスに沿って途切れることなく巡らすのが基本です。

[外部参考納まり例]

建物の外周を切れ目なく

建物の外周を切れ目なく

屋内のExp.J.は空間ごとに

クリアランスのある位置が、内部空間をつなぐ場合などは、屋外側とは別に、屋内側にもExp.J.が必要になります。
例えば、クリアランスをまたぐ形で内部廊下が通っていたり、部屋があったりする場合は、クリアランスに沿って屋内側からExp.J.を取り付けます。

[内部参考納まり例]

建物内は空間ごとに

建物内は空間ごとに

空間が仕切られているので、屋内側のExp.J.は屋外側よりも複雑になります。例えば、クリアランスを挟んだ2つの躯体を一体化させる5階建ての建物で、各階に内部廊下があれば、各廊下の床・壁・天井にExp.J.を取り付ける必要があります。

進化を続けるExp.J.

雨風から守る「雨仕舞い」が前身

建築部材のなかでも、Exp.J.は比較的、歴史の浅い建材です。
建物の大型化によって構造躯体を分けたときに生じる隙間をつなぐために考案されました。ただし、当初はクリアランスをふさいで建物を雨風から守る「雨仕舞い」としての機能を意識したものでした。
施工に当たったのも、金属屋根や笠木など、雨仕舞いの建築金物を手掛ける「板金工」でした。当時はすべてが特注品で、工場で曲げ加工したアルミやステンレスの金属部材を現場に持ち込み、各部位に合わせて個別に製作していました。

1980年代から進んだ規格化

現在のExp.J.へと発展し始めたのは1980年代。建物にクリアランスを設ける設計が普及するのに連れて、国内の金属建材メーカーなどが、規格化されたExp.J.製品を発売し始めました。
複雑な機構を組み込んだExp.J.もつくられるようになり、1986年には業界団体である「日本エキスパンションジョイント協議会(現日本エキスパンションジョイント工業会)」も設立されました。

阪神・淡路大震災が転機

その後、大きな転機になったのが、1995年1月に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)です。予想を超えた躯体の揺れを受けて、多くのExp.J.が激しく変形したほか、「破損」や「脱落」する被害が発生しました。
Exp.J.は、建築基準法で規定された建物の「主要構造部」ではありません。そのため、同規模の地震に対しては破損や脱落もあり得るという認識が、当時は持たれていました。Exp.J.の破損や脱落は、躯体の変形や動きに追従し、力を吸収したためで、結果として建物を守ったと受け止めることもできるからです。
しかし、阪神・淡路大震災では、非常時の避難経路になっていた廊下などのExp.J.が破損・脱落したことで、通行が困難になった問題などが指摘されました。これを機に、大地震発生後も機能を維持できるようなExp.J.を期待する声が高まり、各メーカーの研究開発や製品化が本格化しました。

現代建築とともに進化中

その後の新潟県中越地震、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、熊本地震を経るなかで、想定される大地震に対しても、著しく損壊したり、脱落したりすることがないようなExp.J.が考案されています。
このように、Exp.J.は現代建築の発展とともに急速に重要度を増しており、現在も進化の過程にあります。

建物内は空間ごとに

Exp.J.開発の歴史

※「Exp.J.」それとも「Exp.J.C.」?

エキスパンションジョイントに関していろいろな資料を調べていくと、「Exp.J.」と「Exp.J.C.」の2種類の省略表記が出てきます。Exp.J.とExp.J.C.はどう違うのでしょうか?

業界団体である日本エキスパンションジョイント工業会の定義を要約すると、Exp.J.とExp.J.C.は次のように違います。

Exp.J.(エキスパンションジョイント)
一定規模以上の建物は、温度変化や地震などの影響を避けるために、複数のブロック(躯体)に分割し、隙間(クリアランス)を設けて建てます。
分割された各躯体が異なる動きをしても、それぞれが追随できるように「接合する手法・工法」をExp.J.と言います。

Exp.J.C.(エキスパンションジョイント・カバー)
躯体間に設けられた隙間(クリアランス)を覆って、一体的に使えるようにした「仕上げ材」をExp.J.C.と言います。

Exp.J.概念図

Exp.J.概念図

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ABC商会のエキスパンションジョイントシリーズ

アーキパンションSシリーズ
標準スタンダードタイプ
(クリアランス50~200mm)
アーキパンションHシリーズ
ハイグレードタイプ
(クリアランス250~600mm)
アーキパンションNシリーズ
天井・内壁ボード貼りタイプ
(クリアランス50~400mm)
アーキパンションTシリーズ
高層マンション用手摺りタイプ
(クリアランス300~600mm)
アーキパンション車路シリーズ
車路用(耐荷重25t)タイプ
(クリアランス50~100mm)
セミオーダータイプ
(クリアランス50~600mm)
アーキウェイブ Eシリーズ
熱可塑性エラストマータイプ
(クリアランス100~600mm)
アーキパンションM(免震)シリーズ
免震構造用タイプ
(可動量350~900mm)