「防音」「遮音」「吸音」はどう違う?
騒音対策のための各種建材や資料を見ていくと、「防音」「遮音」「吸音」といった言葉が入り混じって使われています。これらの言葉は、どう違うのでしょうか。
実は、防音・遮音という言葉に、明確な定義はありません。一般に理解されているのは、「防音」は、「遮音」と「吸音」を含む音対策の総称であるということです。つまり、遮音と吸音は、防音のための手法になります。
例えば、騒音源の外側にスチールプレートを立てれば、空気伝播音を遮るので、遮音になります。しかし、音は反射したり、回折したりするので、それだけでは十分な防音にはならないことがほとんどです。
そこで用いるのが、吸音材です。遮音と吸音の双方を使って音の伝わり方をコントロールして、防音性能を確保することになります。
実際の防音や遮音では、普段の建築設計では見慣れない単位や指標が多く登場します。音の高低を表す「ヘルツ(Hz)」や、音の大きさを表す「デシベル(dB)」があり、防音・遮音性能を示す指標には「Dr値」や「T値」、「L値」などがあります。
それぞれはどのように違うのか?設計者として最低限、知っておきたい大まかな違いを整理してみます。
音の「高低」と「大きさ」を表す単位(Hz、dB)
Hz(ヘルツ:Hertz)=音の「高低」を表す単位
国際的に幅広く用いられている単位で、誰もが聞いたことがあるでしょう。周波数・振動数を表す単位で、建物の騒音では「音の高低」を示すものとして用いられます。
波動や振動が、1秒間に何回繰り返されるかを示すもので、例えば1秒間に1回の波動は1Hzです。
音波だけでなく、電波や電磁波の周波数を表す単位としても用いられます。
dB(デシベル:Decibel)=音の「大きさ」を表す単位
音のパワー(大きさ)を示す単位で、騒音対策で最もよく目にするものです。
日常生活における一般的な騒音レベルについては、日本建築学会の「建築物の遮音性能基準と設計指針」などで示されています。
このほか、音の大きさには「ホン(phon)」という単位があり、かつては騒音レベルを示すものとして使われていました。しかし、1997年の計量法改正を機に、騒音の単位としては使われなくなり、現在はdBが用いられています。
騒音とうるささの目安
防音・遮音性能を示す指標(Dr値、T値、⊿L等級)
Dr値=壁・建具の防音・遮音性能
主に、壁や建具の防音・遮音性能を示すのに用いられる指標です。防音壁やドアなどが、どのくらい音を遮断するかを示します。例えば、あるドア製品で、Dr値が45(Dr-45)と表示されているとき、そのドアは平均して45dBの音を遮る性能を持っています。
ある部屋で90dBの音を発しても、ドアを隔てた隣室に伝わる音は45dBになります。同じドア製品でも、Dr-45、Dr-40、Dr-35など異なる仕様が用意されている場合、数字の大きいもののほうが音を遮る性能は高くなります。
Dr-45とは45dBを遮る性能
Dr値による遮音性能の表示では、右のような表とグラフがよく用いられます。表示形式が違うだけで、どちらも同じ内容です。
これら表・グラフの読み方には、少し説明が必要でしょう。ここではDr-45という遮音性能を持つ防音ドアを例に説明してみます。
水色の破線矢印は、発生源の音の高さが1000Hzのとき、その音の大きさを53dB遮ることを示しています。
同じように、赤色の破線矢印は、Dr-45の防音ドアが、高さが500Hzの音を、大きさにして47dBを遮ることを表しています。
もう少し具体的な例として、男性と女性、子どもが、同じ90dBの大きさで話す声の遮音効果を比べると、次のようになります(一般的な例)。
エービーシー商会の防音ドア
「エスプルードシリーズ」の遮音性能の例
Dr-45の防音ドアが、90dBの音を遮る効果の違い(例)
男性の声 (500Hz) :90dB(話し声)- 47dB(遮音性能)= 43dB
女性の声 (1000Hz):90dB(話し声)- 53dB(遮音性能)= 37dB
子どもの声(2000Hz):90dB(話し声)- 55dB(遮音性能)= 35dB
つまり、音の「高低」(周波数の高低)によって、遮ることのできる音の「大きさ」は異なるわけです。上のグラフからも、高い音のほうが、音の大きさを遮りやすい傾向を読み取ることができます。
発生源の音の高低による差はありますが、防音ドア製品などの遮音性能で、Dr-45やDr-40といった数字を表示しているのは、あくまで平均的な数値を用いたものです。
こうした音特有の理論も踏まえ、実際の設計では、遮音性能を示す表・グラフをもとに、空間に求められる適切な性能の製品を選ぶとよいでしょう。
T値=サッシ・ドアの遮音性能
主に、サッシやドアの遮音性能を示す指標として、建具メーカーを中心に用いられています。その性能は、日本工業規格で規定されています(JIS A 4706)。
⊿L等級=床衝撃音の遮音性能
主に床の衝撃音に対する遮音性能を示す指標で、2008年より導入された性能等級(JIS A1440-1,2)です。
床衝撃音の遮音性能を表す方法として、これまで、LL-45等の「推定L等級」が使われてきました。「推定L等級」は特定の空間性能においてどれだけ音が聞こえるかを評価しています。実際の建物の床衝撃遮音性能は、床スラブの厚さや床材の性能、居室の大きさなどのさまざまな要因によって変化するため、床材の遮音性能と空間の遮音性能に差が生じる可能性がありました。
対して「⊿L等級」は、床材自体が衝撃音に対してどの程度低減性能を持っているかを示します。
製品自体の性能を示しているため、特定の条件に左右されずに評価が可能です。
低減性能のため、値が大きいほど性能が高いことになります。
⊿L等級には「⊿LL」と「⊿LH」の2つがあります。
⊿LLは軽いものが落ちる音(軽量衝撃音)に対する低減性能、⊿LHは重いものが落ちる音(重量衝撃音)に対する低減性能です。
実際の軽量衝撃音(⊿LL)、重量衝撃音(⊿LH)は専用の機器を用いて測定します。
重量衝撃音の測定に用いる重量床衝撃音発生器
「バングマシン」
(写真提供:リオン株式会社)
軽量衝撃音の測定に用いる軽量床衝撃音発生器
「タッピングマシン」
(写真提供:リオン株式会社)
⊿L等級には等級基準値が定められており、測定結果を基準値にあてはめ、等級が決まります。
建築設計者からすると、HzやdB、Dr値、T値、L値といった音の単位や指標は、少しなじみが薄いかもしれません。しかし、騒音対策として防音・遮音が求められる建物の設計では、必ず接するものなので、最低限の知識は備えておきたいところです。
今回までの2回のコラムでは、防音・遮音の設計に備えるための基本をおさらいしました。次回では、モデル建物を題材に防音・遮音シミュレーションを実施して、実際の設計のヒントとなるコラムをお届けします。
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