地上の室外機、騒音対策に適した防音壁は?

近隣に対する騒音対策は、とかく甘くなりがちです。「防音壁を設置したけれど、意外に音が防げなかった」というケースが、実に多く見られます。
その主因は、音が広がっていくイメージをつかみ切れていないためです。

そこで、今回から2回にわたり、シミュレーションソフトを用いて、いくつかの防音壁の設置パターンについて防音・遮音の効果を比較してみます。
結果を見ると、音への注意力が変わるかもしれません。

1回目となる今回は「地上設置編」として、設備機器の室外機を地上に置く典型的なケースで比較検討してみます。
設定する条件は次のようなものとします。

騒音の発生源

1台当たり80dBの運転音を発する室外機4台を、建物の外壁沿いの地上に横並びに設置します。4台の発する合計の運転音は86dBになります。(注※室外機4台の合計騒音値の計算方法参照)
基礎を含め、室外機の高さは1.6m。機器の上面から上方に排気するタイプです。

測定点

騒音の発生源から約12mの敷地境界線上(設置場所から直角方向の最短距離)で、地上1.5mの高さで計測します。人の顔の位置に相当する高さです。
防音対策を取らないと、計測点では61dBの音を測定します。多くの人が「音がうるさい」と感じ、騒音クレームにつながりかねないレベルです。

防音・遮音の目標

防音壁を設置することで、多くの人が「静かだ」と感じられる45dB以下に下げることを目標にします。

室外機4台の合計騒音値の計算方法

■防音壁の設置パターン1■
設計者が最初に考える防音壁、実は不十分かも?

多くの設計者が、最初に考えるのはこのパターンです。防音壁を設置するのは、敷地境界線と正対する1面のみで、室外機の直近です。室外機が並ぶ両側には設けません。防音壁の高さは2.5m。室外機を1m近く上回る高さに設定しています。最もシンプルで、コストも抑えやすい防音壁です。

<設置パターン1>

防音壁の高さ=2.5m

防音壁の設置面=1面(前面のみ設置)

<結果>

計測点の騒音=49.8dB > 45dB(目標値)

このパターンでは、騒音対策の目標に届きません。
右図にもあるように、音は直線的に広がっていくわけではありません。室外機より高い防音壁を設置しても、音は壁を乗り越えたあと、地上に向けてまわり込むように広がっていきます。

さらに問題なのは、防音壁がなく、開放された両側から音が拡散していくことです。測定点がある正面方向よりも、距離が長くなる斜めの方向に、より大きな騒音が届いてしまいます。
結果を見ると、このパターンは必ずしも十分な騒音対策とは言えないことが分かります。

■防音壁の設置パターン2■
四方を閉じても防音効果は上がらない!

次に、音が漏れてしまった両側にも防音壁を設置します。建物の外壁も含めると、水平方向の四方を完全に閉じるパターンです。防音壁の高さは、前回と同じ2.5mのままとします。

<設置パターン2>

防音壁の高さ=2.5m

防音壁の設置面=3面(四方を閉じる)

<結果>

計測点の騒音=50.3dB > 45dB(目標値)

室外機の正面だけでなく、両側2面にも防音壁を設置すると、横からの音漏れが大幅に低減されることが分かります。

ところが、3面を防音壁で囲んでも、防音効果は正面1面だけの場合とほとんど変わりません。わずかながら数値が大きくなるほどです。
なぜ、四方を閉じても防音効果が上がらないのでしょうか。

ここから学べるのは音の反射です。
四方が閉じられていると、唯一開放されている上方にしか、音は出ていくことができません。
そのとき、防音壁内部に反射する音や、建物の外壁上部に反射する音は、1面だけに防音壁を設ける場合よりも大きくなる傾向があります。
このシミュレーションの結果は、発生源から直接届く音は小さくなっても、それを相殺するほど大きな反射音が、計測点に届くことを示唆しています。

この結果からは、防音対策には、発生源からの直接音だけでなく、反射音も考慮に入れたほうがよいことが分かります。

■防音壁の設置パターン3■
防音壁が高いほど騒音を防げる

そこで、さらに次のパターンとして、3面に設置する防音壁の高さを変えてみましょう。パターン2では2.5mでしたが、4.0mまで高くしてみます。

<設置パターン3>

防音壁の高さ=4.0m

防音壁の設置面=3面(四方を閉じる)

<結果>

計測点の騒音=44.5dB < 45dB(目標値)

結果を見ると、防音効果が一気に高くなったことが分かります。ここでようやく目標とする45dB以下に下げることができました。
防音壁を高くしたことで、直接音も反射音もより高い位置で拡散し、地上まで届きにくくなっています。

一方、防音壁を高くするほど、美観やコストを懸念する声も多く聞かれるようになります。
また、パターン2・3のように3面に防音壁を設置して室外機スペースを閉じる場合、メンテナンスなどで出入りするために、防音壁の一部をドアにする必要があります。ドアの設置は、防音壁よりも費用がかかるため、防音壁工事全体のコストアップ要因となります。

■防音壁の設置パターン4■
いっそ屋上に載せてみたら?

ここで視点を変えて、室外機を屋上に載せるパターンを考えてみます。想定する建物の高さは15m、奥行きは30m。その屋上の真ん中に4台の室外機を置きます。
そのとき、パターン3までと同じ敷地境界線上の計測点では、どのような大きさの音が計測されるでしょうか。

<設置パターン4>

室外機を屋上中央に設置

防音壁なし

<結果>

計測点の騒音=31.3dB < 45dB(目標値)

シミュレーションの結果からは、パターン3よりもさらに大きな防音効果を得られることが分かります。
その理由は2つ考えられます。
1つは、騒音の発生源から測定点までの絶対的な距離が長くなるため、音の減衰効果が高まった点です。
もう1つは、騒音の発生源が、高さが15mある屋上の中央なので、地上まで音がまわり込まないことです。

屋上の設置は、地上よりもメンテナンスの手間が増える可能性があります。しかし、限られた敷地に室外機を設置しなければならない場合や、地上の騒音を可能な限り軽減したい場合などには有効でしょう。

そこで次回は、建物の屋上に室外機を設置する場合、近隣マンションの中層階などにどのような音が届くのかを比較検討してみます。

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