壁に見る3つのキーワードの関係

壁用免震Exp.J.C.の動き

壁用免震Exp.J.C.の設計には、床用とは違った視点を持つ必要があります。
前回Part 1で取り上げた床用と同じ建物内に取り付けられる可動量600mmの外壁タイプ(図3)を例に次の3つのキーワードの関係を見てみましょう。

キーワード
「クリアランス」「免震Exp.J.C.の製品幅」「可動スペース」

クリアランスを挟んで直交して立つ壁同士の間に免震Exp.J.C.を設置するケースです。片方の建物は免震構造、他方は耐震建物と仮定します。
図4のように地震発生時、クリアランスが狭まると免震Exp.J.C.は片側の壁沿いにせり出します。一方、クリアランスが広がると、免震Exp.J.C.も大きく広がります。

図3 直交する壁の間に設ける免震Exp.J.C.の納まりの例(平面詳細図)

図3 直交する壁の間に設ける免震Exp.J.C.の納まりの例(平面詳細図)

ABC商会「外壁用Exp.J.C.ポップアウトタイプ」

図4 直交する壁同士の間に設ける免震Exp.J.C.の可動イメージ(X方向)

図4 直交する壁同士の間に設ける免震Exp.J.C.の可動イメージ(X方向)

床とは異なるクリアランス寸法

壁用免震Exp.J.C.のパターンでは、「クリアランス」について特に注意が必要です。
可動量が600mmの場合、床用免震Exp.J.C.ではクリアランスを700mmとしていましたが、壁用免震Exp.J.C.(図3)ではクリアランスが1,130mmまで広がっています。
床用と壁用では、同じ可動量でも確保すべきクリアランスのサイズが大幅に異なるのです。すなわち壁用の免震Exp.J.C.が動くためには、構造クリアランスよりもはるかに大きなクリアランスを確保することになります。

このようなことが起こるのは、クリアランスが広がったときに現れる下地材をクリアランス内部に収納しているからです。クリアランスが狭まったときでも、その内部には下地材が残るため、その分のクリアランスが必要となるのです。

「可動スペース」を把握した設計とは

Part1の床の場合でも説明したとおり、壁用免震Exp.J.C.でも「可動スペース」に注意が必要です。
せり出す先に障害物がないような設計とは一体どのようなものなのでしょうか。
写真で見てみると、下の写真のようになります。左側の建物が矢印の方向に動いた際にせり出した部分が右側の建物にぶつからないように赤枠のスペースが確保されていることが分かります。

「可動スペース」を把握した設計とは

壁用免震Exp.J.C.の設計のポイント

壁用免震Exp.J.C.についても、図でまとめて整理してみましょう。

壁用免震Exp.J.C.の設計のポイント

これまでの内容から、壁用免震Exp.J.C.設計段階で注意すべき重要なポイントが見えてきます。壁用では、構造上必要な「クリアランス」よりもはるかに大きな「クリアランス」を確保しなければならない点です。また、免震Exp.J.C.が狭まる動きをした際の「可動スペース」を確保しておくことも必要です。

免震Exp.J.C.設計の総括

免震Exp.J.C.設計の重要なポイント

ここまで見てきた免震Exp.J.C.の設計のポイントをおさらいしてみます。
床用におけるポイントは、「クリアランス」に対して「免震Exp.J.C.の製品幅」が大きくなることです。
一方、壁用のポイントは、確保すべき「クリアランス」が構造上必要な「クリアランス」よりもはるかに大きくなります。
「可動スペース」はどちらにも共通で重要なポイントです。
可動量が分かった段階で、免震Exp.J.C.の取り付けを意識し、どちらの方向にどれだけ動くかを把握することで、確保すべきクリアランスや可動スペースの取り方が決定されていきます。

免震Exp.J.C.の可動量とクリアランスは表裏一体

設計では早い段階からExp.J.C.メーカーに声をかけ、適切な免震Exp.J.C.の選定とクリアランスの決定を一体的に進めていく必要があります。
免震Exp.J.C.の製品幅や可動量を考慮せず、可動量だけで建築計画を固めてしまう場合、あとから免震Exp.J.C.を設計しようとしても、適切な製品がなかったり、意匠にも関わる無理な納まりをせざるを得なかったりしかねません。
免震建物では、免震Exp.J.C.の可動量とクリアランスは表裏一体な関係にあると認識してください。

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