クリアランスは何ミリに設定する?

設計段階でクリアランスを決める

「クリアランス」は、設計段階で判断します。何ミリのクリアランスが適切なのかという具体的な数値は、構造計算をもとに設計者が決めます。柱の位置やプランニングにも影響するので、クリアランスの決定は重要な意味を持ちます。

クリアランスは拡大傾向

東日本大震災以降、クリアランスは拡大傾向にあります。例えば、構造計算上は、確保すべき変形追従量が建物高さの100分の1でよい場合でも、実際の設計ではその2倍の50分の1とするように、あえてクリアランスを大きく取ることが慣習化しつつあります。
大地震発生時、クリアランスを挟む両側の建物は異なる動き方をします。クリアランスを大きく確保しておけば、想定を超えて揺れた場合でも、建物同士がぶつかるリスクを抑えられます。そうした「想定外想定」をすることで、より高い安全性の確保を重視する傾向が強まっています。
そして、クリアランスに取り付けるExp.J.も、当然、その寸法によって変わってきます。

クリアランス設定の最近の傾向(例)

クリアランス設定の最近の傾向(例)

「クリアランス=Exp.J.の可動量」ではない

クリアランスの寸法は、建物同士がぶつからない寸法であり、Exp.J.の可動量ではありません。メーカーが用意している規格品のExp.J.の可動量はおおよそクリアランスの30~60%です。例えば、クリアランスが150mmならば、メーカー規格品のExp.J.の可動量は45~90mm程度となります。可動量は、メーカーによっても製品のグレードなどによっても異なります。
そのため、地震発生時に、Exp.J.の可動量以上に建物同士が動いた場合、Exp.J.は追従できず破損します。
もしも、Exp.J.に150mmの可動量を確保したいという場合は、その可動量を基準に逆算したクリアランスを設定する必要があります。しかし意匠面やコスト面を考慮し、一般的にはクリアランス寸法を基準にExp.J.を選定するケースが多いです。

「クリアランス=Exp.J.の可動量」ではない

Exp.J.は非構造部材

Exp.J.は、建築基準法が規定する主要構造部ではありません。非構造部材であるため、可動量を超えて建物が動いた場合は、破損・損傷する可能性があります。可動量の大きい製品を使えば、そうしたリスクは抑えられますが、コストアップにつながり、意匠上も目立つようになります。非構造部材に求める性能には合理的な判断が必要です。地震発生時、躯体などの建物本体が破壊されることは極めて深刻な問題ですが、現在一般的なのは、Exp.J.の破損・損傷であれば、補修で対応するという考え方です。
なお、メーカー規格品のExp.J.の30~60%という可動量は、経済性や施工性、意匠性、メンテナンス性などを総合的に考慮して、現時点で最も合理的な品質として設定されています。

どのような視点でExp.J.を選ぶ?

クリアランスや可動量に応じたラインアップ

具体的なExp.J.の選定で、まず確認したいのは、各製品が対応できるクリアランスや可動量、可動追従の機構、意匠性、用途などです。
Exp.J.の選定は、建物内外の美観やコストに関わる重要な判断が必要となります。

金属から樹脂までさまざまな素材

Exp.J.には金属製から樹脂製までさまざまな素材があります。一般的なExp.J.である金属製はアルミとステンレスの2種類があります。
金属以外では、表面をボード材で仕上げる意匠性の高い内装用の製品や、特に最近、意匠面・機能面から注目されている樹脂製の製品があります。樹脂製には、X方向・Y方向・Z方向の全方位に均等に追従する機能があります。

ステンレス製

ステンレス製

ボード仕上げタイプ

ボード仕上げタイプ

樹脂製

樹脂製

プラスアルファの要求性能に対応するExp.J.

Exp.J.の耐火仕様

Exp.J.を設置するような建物は、多くの場合、耐火建築物です。
耐火建築物では、主要構造部に1時間耐火もしくは2時間耐火、3時間耐火の耐火性能が求められますが、非構造部材であるExp.J.は、主要構造部のような耐火性能の区分はないため一様に「1時間遮炎性能」で対応することが一般的です。(※)耐火建築物用のExp.J.は、1時間遮炎性能を持つ耐火帯が主要構造部間のクリアランスをつなぐ形で設置され、耐火仕様となっています。
なお、耐火建築物用のExp.J.としては、より高い要求性能に対応する「1時間遮熱・遮炎性能」を持つ製品もあります。

Exp.J.の耐火仕様

重量物の通過に対応する重歩行用

床用のExp.J.には、通過する人や物の重量などによって「軽歩行用」、「重歩行用」、「車路用」などの区分けがあり、使われ方の実態を踏まえて選定する必要があります。
人やベビーカー、小型の台車などが利用する一般的な床には、軽歩行用のExp.J.を使います。
一方、おおむね300~400kgの重量物が頻繁に通過する床には、耐荷重性の高い重歩行用のExp.J.を用います。温冷配膳車や移動型X線装置を利用する病院、新聞や雑誌を積載した重い台車が通過する駅や空港施設などが、その対象になります。その他にも、商業施設など、日常的に非常に多くの人が通過する床にも、重歩行用のExp.J.を採用するのが一般的です。

このほかにも、遮音性能などExp.J.には様々な要求性能に応じた製品が用意されています。Exp.J.は、建物の用途や、その設置箇所などによって適切に使い分ける必要があります。同じ箇所に設置するExp.J.にも、製品の種類やグレードに多くの種類があります。メーカーにより設計図面の協力を行なっているケースもありますので、設計の早い段階でExp.J.取り扱いメーカーにお問い合わせください。

※耐火建築物のExp.J.の取り扱いについて

1.Exp.J.C.部に求められる耐火性能

建築基準法施行令第百七条により、耐火建築物の主要構造部には部位ごとに非損傷性(令第百七条一号)、遮熱性(令第百七条二号)、遮炎性(令第百七条三号)が求められていますがエキスパンションジョイント部は空間ですので非損傷性は不要です。主要構造部そのものとは異なり構造耐力に影響がないことから建築基準法施行令第百七条二号(1時間遮熱性能)と三号(1時間遮炎性能)を満たしていればよいことになります。

2.2種類の耐火仕様

エービーシー商会のExp.J.C.用耐火帯は、上記の遮炎性の性能を持つ仕様である「12.5mm耐火帯」と、遮熱性の性能にも対応した仕様である「25.0mm耐火帯」の」2種類について、日本エキスパンションジョイント工業会の適合番号を取得しています。

※日本エキスパンションジョイント工業会およびエービーシー商会ではエキスパンションジョイント部を「開口部」と認識しておりますが、「主要構造部」と捉える場合もあり適合法令がそれぞれ異なります。「開口部」と捉える場合は、防火性能:令第百九条の二「20分遮炎性能」、令第百三十六条の二 三号イおよび、令第百十二条「20分~1時間遮炎性能」の検証を要し、「主要構造部」と捉える場合は、要求耐火性能:令第百七条二号「1時間遮熱性能」、令第百七条三号「1時間遮炎性能」の検証を要します。

  • ・クリアランス900mm:遮炎性能(12.5mm耐火帯)
  • ・クリアランス900mm:遮炎性能・遮熱性能(25.0mm耐火帯)

どちらの場合においても検証を経て要求性能を満たしております。
詳しくは日本エキスパンションジョイント工業会のホームページも併せてご確認ください。
http://www.apajapan.org/EJ/ej-home.htm

※建築基準法施行令 第百七条一号の要求性能

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ABC商会のエキスパンションジョイントシリーズ

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