屋上の室外機、向かいのマンションからクレームの出ない
防音壁は?

屋上に室外機を置きたいけれど、隣のマンションから騒音クレームが出ないようにしたい――。 前回の「地上設置編」に続き、今回のパート2は「屋上設置編」です。屋上に室外機を設置するケースで、いくつかの防音壁の設置方法を比較してみます。

シミュレーションでは、次のような条件を設定します。

騒音の発生源

1台当たり80dBの運転音を発する室外機4台を、建物の屋上の中央に設置します。建物は高さ15m、奥行き30mです。
4台の発する合計の運転音は86dBになります。(注※室外機4台の合計騒音値の計算方法参照)
基礎を含め、室外機の高さは1.6m。機器の上面から上方に排気するタイプです。

測定点

隣接地に高さ17mのマンションが建っています。建物の屋上とほぼ同じ高さに当たる最上階の窓やバルコニーに近い敷地境界線上を測定点に設定します。騒音の発生源からは直線距離にして約25mあります。
防音対策をとらないと、計測点に届く音の大きさは54dBです。人や時間帯によっては「室外機がうるさい」と感じ、騒音クレームが出かねないレベルです。

防音・遮音の目標

防音壁を設置することで、多くの人が「静かだ」と感じられる45dB以下に下げることを目標にします。

室外機4台の合計騒音値の計算方法

■防音壁の設置パターン1■
正面は防げても斜め方向の騒音に不安

騒音対策の目標に対して、最もシンプルな防音壁のパターンです。
向かいのマンションに向いた1面だけに防音壁を設けます。防音壁の高さは2.5m。室外機を1mほど上回る高さです。屋上のため、防音壁の設置には独立基礎を用いており、基礎の高さ分だけ足元は開放されています。

<設置パターン1>

防音壁の高さ=2.5m

防音壁の位置=1面(室外機の直近)

<結果>

計測点の騒音=43.9dB < 45dB(目標値)

騒音対策の目標は達成できます。ただし、目標が達成できるのは、測定点がある最短距離の正面方向に限られます。
右図にもあるように、向かいのマンションの両端には45dBを超える音が届いています。開放された両側から運転音が拡散して、防音壁の端をまわり込むように広がっていくためです。
騒音対策としては不安の残るパターンでしょう。

■防音壁の設置パターン2■
3面を囲んで両脇からの拡散を抑える

そこで、次のパターンとして、正面方向に加えて両側にも防音壁を設置するパターンの効果を見てみましょう。防音壁の高さはパターン1と同じ2.5mです。

<設置パターン2>

防音壁の高さ=2.5m

防音壁の位置=3面(室外機の外周)

<結果>

計測点の騒音=43.4dB < 45dB(目標値)

正面にある測定点の数値は、パターン1と同等です。一方、両サイドからの音の漏れを防ぐことで、向かいのマンションの平面方向に均質な防音効果が得られるようになりました。
断面方向も含めたマンション全体にわたり、45dBを超える音が届く箇所はありません。

ただし、防音壁を設けない片面の方向に、将来、マンションなどの建物が建った場合、何らかの防音対策に迫られる可能性は残ります。

■防音壁の設置パターン3■
全方位の騒音対策に安心感

将来の備えも考慮して、室外機の外周を防音壁で完全に囲むパターンも見てみましょう。

<設置パターン3>

防音壁の高さ=2.5m

防音壁の位置=4面(室外機の外周)

<結果>

計測点の騒音=44.5dB < 45dB(目標値)

測定点のある正面方向は、パターン1・2と同等の防音効果です。水平方向の音の拡散も、パターン2とほぼ同じです。
4方向を囲むことで、音の拡散が同心円状になり、屋上の外はすべて45dB以下の音に抑えることができます。将来、隣地に建物が建った場合でも、追加の対策を講じる必要はないレベルと言えるでしょう。

ただし、室外機をすっかり囲んでしまうので、メンテナンスのために出入りするドアの設置が必要になります。ドアの設置は、防音壁よりも費用がかかるため、防音壁工事全体のコストアップ要因となります。

■防音壁の設置パターン4■
パラペットまわりの防音壁は効果薄?

設計者からの提案で意外に多いのが、屋上のパラペットに沿って防音壁を設けるパターンです。防音壁を、外壁面の意匠とそろえて設計したいという意図によるものです。
外周を取り囲むという点ではパターン3と同じですが、防音効果はどうでしょうか?

<設置パターン4>

防音壁の高さ=2.5m

防音壁の位置=4面(パラペット沿い)

<結果>

計測点の騒音=47.5dB > 45dB(目標値)

結果を見ると、ここまでの3つのパターンと比べて最も防音効果が低く、唯一、目標とする45dBを切ることができません。
測定点だけでなく、水平方向・断面方向のどちらを見ても、他のパターンよりも防音効果は劣ります。

原因は、防音壁が室外機から離れすぎている点にあります。防音壁で遮る前に、室外機の運転音は広く拡散してしまうのです。
防音・遮音は、音の発生直後に対処するのが基本です。防音壁も、設置場所が発生源の近いほど効果を得やすくなります。

それに対して、パラペットまわりへの設置は、防音効果が薄いばかりか、防音壁の設置延長が長くなるのでコスト高にもつながります。
また、建物の縁に設置するので、日影規制など高さの制約を受けることもあり得ます。

2回にわたるコラムで、シミュレーションソフトを用いた防音壁の比較検討をしてきました。しかし、設定した条件や、比較した各パターンは、防音壁の基本を理解しやすい典型例に過ぎません。
実際の防音対策は、プロジェクトごとの条件に基づき、最適な個別解を見出していく必要があります。防音対策は、とかくプロジェクトの進行のなかで後まわしになりがちですが、検討の開始が遅いほど、取れる対策も限られてきます
それだけに、設計の早い段階から、防音・遮音関連の商品を扱うメーカーに打診・相談することをお勧めします。

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