巨大地震に備えて急増する免震建物

増加する免震建物に必須の免震エキスパンションジョイント

近年、にわかに増えてきた免震建物に欠かせないのが、「免震エキスパンションジョイント(Exp.J.)」です。
免震建物では、免震装置によって地震力が吸収され、ゆっくりとした揺れになります。それにより、利用者の安全確保と同時に建物が大きく損傷するのを避け、大地震発生後も建物を使い続けられるようにしようというのが、免震の目的です。

大地震が発生すると、免震建物の足元は水平方向に大きく動きます。そのため、免震建物では、あらかじめ建物が動ける隙間を用意しておかなければなりません。
隙間を確保する方法として最も多いのは、建物よりもひと回り大きい地下空間をつくり、外周に必要な隙間を確保して建物を配置するものです。一般的な免震建物の場合、その隙間が600mm程度になります。
しかし、大きな隙間が開いたままでは、利用者や車が建物を出入りすることができません。隙間から転落する危険も残ります。そこで、隙間を“橋渡し”するように取り付けるのが、免震Exp.J.です。

増加する免震建物に必須の免震エキスパンションジョイント

阪神・淡路大震災以降、急速に普及

免震建物が急速に増え始めたのは、1995年1月の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)以降のことです。その後、大地震が起こるたびに免震に対する関心が高まり、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を機に、免震建物が一般化するようになりました。
その間に免震Exp.J.に関する知見も深まり、技術的にも大きな進化を遂げています。当初の免震Exp.J.は特注対応のみでしたが、現在では規格化された製品も多く登場するなど、より導入しやすくなっています。

BCPなどの観点から進む免震化

免震構造は様々な用途の建物で取り入れられています。
免震建物の代表例が、巨大地震などの大規模災害発生時に災害対策拠点となる自治体の庁舎や医療機関です。災害発生後も建物が機能し、適切な災害支援活動を実施できるように免震構造を取り入れています。

BCP(事業継続計画)の観点から、企業なども免震構造の価値を高く評価するようになっています。オフィスビルを始め、物流施設研究開発施設商業施設など、企業活動を継続するうえで重要な拠点施設を中心に、免震構造を取り入れるケースが増えてきました。
また、近年は住宅(マンション)でも免震構造の導入が進んでおり、免震という言葉が広くエンドユーザーにも知られるようになりました。

新築に限らず、既存建物の改修に伴う免震化も見られます。
災害対策拠点となる自治体の庁舎などには、耐震性能が十分ではなく、建て替えも困難な建物が少なくありません。そこで、既存庁舎を改修して免震装置を導入し、災害に強い建物に再生しようとするものです。
また、歴史的建造物でも改修による免震化が散見されます。建物本体に大掛かりな耐震補強を施すと、貴重な原形を損ねてしまうので、足元の基礎部分に免震装置を導入して耐震性を高めるケースです。

そして、そのような免震構造を取り入れた建物では、必ず設置されるのが免震Exp.J.です。

災害拠点の機能維持を目的に免震化された庁舎の免震Exp.J.

災害拠点の機能維持を目的に免震化された庁舎の免震Exp.J.

BCP(事業継続計画)に基づき免震化されたオフィスビルの免震Exp.J.

BCP(事業継続計画)に基づき免震化されたオフィスビルの免震Exp.J.

歴史的建造物の保全に伴う改修で導入された免震Exp.J.

歴史的建造物の保全に伴う改修で導入された免震Exp.J.

主要動線を守る免震Exp.J.

免震Exp.J.はどこに設置する?

免震建物の免震Exp.J.は、免震化された建物と、免震化されていない建物などとの接合部分に設置します。
具体的には、隣接する非免震建物との接合部や渡り廊下、免震建物内のエレベーターシャフトまわり、そして建物周囲の地盤との間にできる隙間(外構まわり)などです。

その設置箇所をよく見ると、免震Exp.J.の重要性が理解できます。下の図にもある通り、免震Exp.J.の設置箇所は、建物内外の主要な動線上にあり、日常的な利用者の利便性や、災害発生時の避難安全、建物の機能維持を図るうえで重要な役割を担っているのです。

免震Exp.J.はどこに設置する?
内部プラン

免震Exp.J.と一般的なExp.J.は似て非なるもの

免震Exp.J.は、地震時の建物の動きに追従する性能を備えています。
建物本体が無事でも、免震Exp.J.が大きく損傷してしまっては、地震時の避難経路の確保や、地震後の建物の機能維持に支障をきたしてしまうためです。

そうした機能維持という点で言えば、免震用ではない一般的なExp.J.と、免震Exp.J.は似ています。
一般的なExp.J.は、地震時の挙動が異なる2棟の建物をつなぎ、地震の揺れから構造体を守る役目を担います。
免震Exp.J.も、建物の構造体を守る目的は同じですが、さらに主要動線を維持・確保することも求められます。

建物の足元まわりに設置された免震Exp.J.

建物の足元まわりに設置された免震Exp.J.

建物内の床に設置された一般的なExp.J.

建物内の床に設置された一般的なExp.J.

→ コラム「若手設計者が知っておきたいエキスパンションジョイントの基礎知識」参照

設計のプロセスも異なる

免震Exp.J.と一般的なExp.J.は、構造的な原理や設置箇所、形状などが違うため、設計手法や製品も異なります。当然、一般的なExp.J.を、免震用に使うことはできません。

設計手法の違いは、設計者として知っておくべき重要なポイントです。
最大の違いは、「クリアランス」(※1)を先に決めるか、「可動量」(※2)を先に決めるか、という設計プロセスにあります。

一般的なExp.J.の場合、構造設計によって、Exp.J.でつなぐ2棟の建物同士の間に設ける「クリアランス」を先に決めます。そして、そのクリアランスに応じたExp.J.製品を選ぶことで、自ずとExp.J.の「可動量」が決まります。
それに対して、免震Exp.J.は、構造設計によって、先にExp.J.の「可動量」を設定します。そして、その可動量の分だけExp.J.が動くことのできるクリアランスを算定していきます。
免震Exp.J.の設計プロセスについては、次回のコラムで詳しく紹介しますが、いずれにしても心得ておきたいのは、免震Exp.J.は躯体の設計と密接に関わるので、設計の早い段階でExp.J.メーカーと打ち合わせを始めることです。Exp.J.の設計が遅れると、あとになって無理な設計変更をしなければならなくなる恐れもあります。

※1 
クリアランス:
Exp.J.でつなぐ2棟の建物同士の間や、建物の外構まわりなどに設ける隙間のこと
※2 
可動量:
設置したExp.J.が、地震時の揺れなどで動くことのできる最大量

ここまでの基本を押さえたうえで、次回のコラムでは、2013年に初めて定められた免震Exp.J.の「性能指標」について解説します。

合わせてお読みください

  • コラム
    • ●免震Exp.J.の性能は3段階
    • ●性能に応じて試験方法のレベルも違う
  • コラム
    • ●建築計画を左右する3つのキーワード
    • ●床に見る3つのキーワードの関係
  • コラム
    • ●壁に見る3つのキーワードの関係
    • ●免震Exp.J.C.設計の総括
  • コラム
    • ●エキスパンションジョイント(Exp.J.)とは?
    • ●どんな建物でExp.J.が必要?
    • ●隙間をどのようにつなぐ?
    • ●進化を続けるExp.J.
  • コラム
    • ●地震のときエキスパンションジョイント(Exp.J.)はどう動く?
    • ●クリアランスをどこに設定する?
  • コラム
    • ●クリアランスは何ミリに設定する?
    • ●どのような視点でExp.J.を選ぶ?
    • ●プラスアルファの要求性能に対応するExp.J.
  • 建材活用ガイド
  • 建材活用ガイド

ABC商会のエキスパンションジョイントシリーズ

アーキパンションM(免震)シリーズ
免震構造用タイプ
(可動量350~900mm)
アーキパンションSシリーズ
標準スタンダードタイプ
(クリアランス50~200mm)
アーキパンションHシリーズ
ハイグレードタイプ
(クリアランス250~600mm)
アーキパンションNシリーズ
天井・内壁ボード貼りタイプ
(クリアランス50~400mm)
アーキパンションTシリーズ
高層マンション用手摺りタイプ
(クリアランス300~600mm)
アーキパンション車路シリーズ
車路用(耐荷重25t)タイプ
(クリアランス50~100mm)
セミオーダータイプ
(クリアランス50~600mm)
アーキウェイブ Eシリーズ
熱可塑性エラストマータイプ
(クリアランス100~600mm)