脱落によって重大な危害が生じかねない「特定天井」とは

「特定天井」には安全確保を義務付け

建築物の内部仕上げの中で、天井は照明などの天井に取り付ける設備と並んで数少ない脱落する可能性がある部材です。東北地方太平洋沖地震をはじめ大きな地震時には、必ずと言っていいほどその脱落事故が報じられてきました。
脱落するだけならまだしも、フロアに人がいれば、重大な危害を及ぼしかねません。天井の表面を構成する部材にはたいてい、石こうボードなど硬く重い部材が使用されているからです。天井の高さが高いほど、また脱落する面積が大きいほど、事態は深刻です。
そうした深刻な事態を未然に防ごうと、国土交通省が2013年7月に建築基準法の施行令を改正する形で打ち出したのが、「特定天井」という考え方です。
これは、脱落によって重大な危害が生じる恐れのある天井です。国交省はこの「特定天井」に関して、震度5強程度の中規模の地震動を念頭に構造耐力上安全な構造方法を定めた告示を2013年8月に公布し、安全確保を具体的に義務付けました。

吊り天井を対象に具体的な条件定める

では「特定天井」とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。国交省の告示では、下の図に示した5つの条件を挙げています。
まず吊り天井であることが大前提です。天井板や天井下地材などを構造耐力上主要な部分から吊り材によって吊り下げる構造のものが対象で、直天井は対象外です。

次に条件として挙げるのは、人が日常立ち入る場所であることです。脱落による重大な危害とは人に対するものを念頭に置いているわけです。ここでは、例えばエントランスや廊下などを想定し、機械室などは除外しています。
残る3つの条件は、天井の高さ、面積、重さを定めたものです。これも、脱落した場合の人への危害を念頭に、一定程度を超えるものを対象にすえています。
「特定天井」に該当する天井を持つ建築物としては、例えば音楽ホール、劇場、体育館、プールなどが考えられます。

吊り天井を対象に具体的な条件定める

「特定天井」の設計では、3つのルートで安全検証

基本は、天井の振れを抑え脱落防止

「特定天井」に関しては、具体的にどのように設計すればいいか、構造耐力上の安全を検証する方法が定められています。それが、下の図に示した「仕様ルート」「計算ルート」「大臣認定ルート」の3つです。
このうち特殊な例で用いる「大臣認定ルート」を除く「仕様ルート」と「計算ルート」は、共通の考え方に立っています。それは、斜め部材などで地震力による天井の振れを抑えるとともに、天井面と壁などとの間に一定の隙間(クリアランス)を確保することで、天井材の損傷や脱落を防止する、というものです。
例えば「仕様ルート」では、斜め部材は必要組数を釣り合いよく配置するように求められています。この点に関しては、階に応じて決まる水平震度をまず求めて斜め部材の組数を算定し、それを踏まえて配置計画を決める、という流れで設計していきます。水平震度の求め方こそ違うものの、「計算ルート」と同じような手順も踏むわけです。

「特定天井」の設計では、3つのルートで安全検証

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(2016年6月末日に、天井と周囲の壁等との間に隙間を設けない仕様が告示第771号に追加、改正されました。こちらは天井面に9.5m以上のせっこうボード等の使用が条件となっており、「ボード天井基準」の告示改正となります。)

※一般社団法人建築性能基準推進協会「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」を基に作成

増改築時は落下防止措置で対応も

既存建築物で「特定天井」に該当する天井を持つものは、どのような扱いになるのでしょうか。既存不適格建築物ですから、建築基準法施行令や告示の規定がさかのぼって適用されることはありませんが、増改築時などには原則として適用されることになります。
ただし、一定の条件を満たす増改築などでは落下防止措置を講じることでも各種法令に対応可能です。
この落下防止措置とは、天井材が落下しそうになった場合、それをつなぎ留めたり受け止めたりすることのできるワイヤー・ロープやネットなどの部材を設置することです。とはいえ、天井材を永続的に保持する性能までは求められていません。要求されているのは、人が避難できるように一時的に保持する性能です。

「特定天井」への対応には、設計・施工上の課題も

簡便な設計法では施工上の課題も

脱落によって重大な危害が生じる恐れのある「特定天井」が定められ、その構造安全性の検証が求められるようになったため、天井の設計にはこれまで以上に手間が掛かるようになりました。最も簡便な「仕様ルート」で臨めばそれらは最低限に抑えられますが、簡便であるがために施工段階で課題が生じる場合もあります。
その課題とは、斜め部材のコストや施工手間です。
「仕様ルート」ではすでに述べたように、階に応じて決まる水平震度から斜め部材の必要組数を算定します。水平震度が大きいほど天井材には大きな力が働くことになるため、斜め部材の必要組数もその分多くなります。
問題は、その水平震度の大きさです。
「仕様ルート」で求めた値は、同じ建築物の同じ階に関して「計算ルート」で求めた値に比べ、大きくなる場合があります。その値を「仕様ルート」は階に応じて一律に定めるのに対し、「計算ルート」はより緻密な計算方法で現実に即したものとして求めるからです。
これはつまり、「仕様ルート」を用いた設計では、斜め部材の必要組数が多くなる可能性を示しています。それは当然、部材のコストや施工手間にはね返ります。

「特定天井」逃れは本道ではない

こうした設計・施工上の課題を避けようと、「特定天井」に該当する天井をつくらないようにするという対応も考えられますが、それは本道とは言えません。
確かに、冒頭に紹介した「特定天井」の5つの条件のうち「高さ6m超」や「水平投影面積200m2超」という条件を逆手に取れば、「特定天井」への該当を避けるように設計できる可能性はあります。例えば、天井の高さを6mぎりぎりに設定したり、水平投影面積を200m2ぎりぎりに抑えたりすることが考えられます。
しかし、「特定天井」はこれらの条件だけで定められているわけではありません。一般社団法人建築性能基準推進協会「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」では、右図に示したような「特定天井」の具体例を掲げています。
そこには、「特定天井」とひと続きであれば、高さ6m以下の部分も「特定天井」に該当するという例や、天井部分が梁などで2つに分割されていて水平投影面積が200m2に満たない場合でも、その合計が200m2を超えていれば「特定天井」に該当するという例がみられます。どのような天井が「特定天井」に該当するのか、「高さ6m超」「水平投影面積200m2超」という条件だけでは語り切れないわけです。

「特定天井」逃れは本道ではない

こうした現実の中で「特定天井」に該当する天井をつくらないようにすると、本来あるべき設計を追求できなくなってしまいます。設計の自由度は大きく損なわれることになるでしょう。

自由度を確保しながら安全を実現できる選択肢とは

天井問題の本質に立ち返って考える

「特定天井」の存在に振り回されてしまうと、本来の道を見失ってしまいます。追い求めるべきは、本来あるべき設計を実現できる自由度と、天井材が重大な危害を及ぼすことのない安全性の確保です。そこに軸足を置きたいものです。
立ち位置を再確認したうえで、天井問題の本質に立ち返って考えてみましょう。
「特定天井」という考え方が登場した背景には、天井材の脱落で人に危害が加わるという問題がありました。その解決には、「脱落防止」と「危害防止」という2つの道筋が考えられます。
「特定天井」の考え方は、重大な危害につながる恐れのある天井に対して地震時の「脱落防止」措置をまず徹底する。それによって、結果として「危害防止」も実現する狙いです。「危ないもの」を「強さ」によって封じ込める発想です。
しかし、「脱落防止」や「危害防止」に向けたアプローチはそれだけではありません。天井にそもそも「危なくないもの」を活用するという発想もあります。
「脱落防止」にも「危害防止」にも役立つ「危なくないもの」とは、つまり軽いものです。「強さ」ではなく、「軽さ」で安全性を確保する新しい発想です。
次回は、この「軽さ」という視点も交えて、安全な天井の設計を考えていきましょう。

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