免震Exp.J.の性能は3段階

非構造部材でも、壊れては困る

免震Exp.J.も一般的なExp.J.も、建築基準法が規定する主要構造部ではありません。非構造部材なので、巨大地震発生時に想定を超えて建物が動き、破損・損傷したとしても、法的には問題がありません。
一般的なExp.J.の場合、可動量を超えた揺れなどによって破損・損傷を受けた際には補修することが前提となっています。

ただし、建物の機能維持などの目的を踏まえると、使えないほど壊れては困ります。
実際、東日本大震災後の(一社)日本免震構造協会による調査結果では、東北地方だけでなく、関東地方でも調査した建物の約30%で免震Exp.J.の一部に損傷が生じていたことが報告されています。※

※出典:免震エキスパンションジョイントガイドライン(一般社団法人日本免震構造協会)

ガイドラインが定める性能指標

東日本大震災による被害と、その後の調査を受けて、2013年4月には(一社)日本免震構造協会により「免震エキスパンションジョイントガイドライン」が取りまとめられました。
同ガイドラインでは、免震Exp.J.が確保すべき性能を、グレードの高い順にA種・B種・C種の3段階で設定しています。
グレードによって地震後の損傷状態が異なることは当然ですが、それぞれの性能を確認するために定められた試験方法のレベルにも大きな差があります。

免震Exp.J.の性能指標の分類

性能指標 中小地震
変位50mm
程度
大地震
設計可動量
確認方法 使用箇所
(参考)
A種 機能保全 機能保全 設計可動量まで損傷しないことを振動台試験で確認する(振動台の可動量が小さい場合にはオフセットして試験することも可とする) 避難経路
人や車の通行の多い箇所
B種 機能保全 損傷状態1 設計可動量において軽微な損傷であることを振動台試験で確認する
または、設計可動量まで損傷しないことを加振台試験で確認する
人の通行する箇所
C種 損傷状態1 損傷状態2 図面により、可動することを確認するのみ ほとんど人の通行がない箇所

※出典:「免震エキスパンションジョイントガイドライン」(一般社団法人日本免震構造協会)第2章表2.1.2

大地震後も機能を保全するのはA種だけ

表にもあるように、最も性能が高いA種は、大地震後も機能を確保し、補修せずに継続して使うことができます。
それに対してB種とC種は、大地震の揺れを受けると、「損傷状態1」あるいは「損傷状態2」の損傷が生じます。どちらの損傷状態も、地震後も通行は可能ですが、そのまま使い続けるのは困難です。
損傷状態1は、大きな変形や傾き、隙間は生じず、地震後に調整や補修をすれば使い続けられる状態です。
損傷状態2になると、損傷はやや大きくなります。Exp.J.の脱落はありませんが、床段差や壁の突出などが生じます。再び免震Exp.J.を使うためには、大規模な補修部品の交換が必要になります。

実際に採用する免震Exp.J.の性能レベルは、設計者や事業者の判断によります。ただし、免震Exp.J.の役割や、性能の確認方法などを踏まえるとA種の採用が望まれます。

性能に応じて試験方法のレベルも違う

A種は地震動を再現する振動台試験が必須

A・B・Cの3種類の性能指標では、それぞれに異なる試験方法が定められています。試験方法の難易度の差が、性能の違いになっているとも言えます。
免震Exp.J.の性能指標で最もグレードが高い「A種」は、振動台試験による難易度の高い性能確認が必須です。
試験に用いる振動台は、毎秒100cm以上の高速加振や、地震動を再現加振でき、上下動や回転成分なども含んだ加振ができる装置です。振動台試験は、地震動の再現加振などを試験体に加え、目標性能の確保を確認します。

A種は地震動を再現する振動台試験が必須

B種・C種はより簡便な試験

A種に次ぐグレードのB種は、より簡易な加振台試験で確認します。
試験は、手動やフォークリフト、もしくは電動モーターによって行います。試験体に水平方向の加振を加え、目標性能を確認します。

C種は、さらに簡便な試験により性能を確認するものです。図面上で製品の位置を動かし、脱落または損傷することがないかどうかを確認する最低限の方法です。

ここまでの基礎を踏まえて、次回以降のコラムでは、実際の設計において欠かせない基本や注意点を解説していきます。

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