「弱い」箇所が損傷を受け、脱落につながる

脱落のメカニズム解明の加振実験

Part1では、天井の安全性を「強さ」ではなく「軽さ」で確保するという選択肢があることに触れました。Part2ではその説明に入る前にまず、地震の揺れを受けて天井が脱落することがあるのは、なぜなのか。脱落のメカニズムを簡単に確認しておきましょう。
小中学校の体育館のような大規模空間で吊り天井が地震時に脱落するメカニズムを解明するために行われた加振実験があります。防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター(通称、Eディフェンス)で2014年1~2月に行われたものです。
この加振実験では、鉄骨造で切妻屋根の体育館を模した試験体を揺らしました。入力地震波は主に、東北地方太平洋沖地震や兵庫県南部地震の時に観測された地震波です。これらを実験に必要なレベルまで調整し、複数回にわたって入力しています。
試験体内部には、Part1で紹介した「特定天井」に関する告示の内容、つまり構造耐力上安全な構造方法の耐震余裕度などを検証する目的もあったため、それに基づく2種類の耐震天井も施工されましたが、それとは別に、そうした地震対策を施していない未対策天井が施工されました。仕上げ材には、厚さ9mmのロックウール吸音板と同9.5mmの石こうボードを用いています。

最終的には仕上げ材が野縁と脱落

報告書によれば、加振実験の結果、未対策天井では最終的に仕上げ材が野縁とともに次々と脱落したといいます。仕上げ材と脱落する野縁が、隣の仕上げ材を引き落とす形です。
そのメカニズムは、①壁との間にクリアランスがないため、天井中央の頂部にある吊りボルトに力が集中②その下部にあるハンガーが損傷し野縁受けが外れ、隣の吊りボルトへの負担が増加③結果として、そのボルト付近で野縁を野縁受けに取り付けるクリップへの負担が増加クリップが外れ、天井面が大きくたわみ出す⑤クリップの外れがさらに広がり、天井面が脱落――と分析されています。地震の揺れによって生じる力が集中し、それに耐え切れなくなった部材が損傷。それによって力のバランスが崩れ、損傷がさらに広がっていき、脱落に至る――。そうした構図が、基本にあるようです。

「脱落防止」のポイントは、確かに「強さ」だが

強固な造りで壁との間には隙間を

「特定天井」に関する告示の内容は、未対策天井でみられた脱落のメカニズムが発生するのを防ごうとするものです。加振実験では耐震天井での実験を通じて、そこで想定する耐震性は確保できるという点も確認されています。
内容をあらためてみると、加振実験に用いられた未対策天井のような告示施行前の天井の実態を改善するものであることが分かります。
下の図は、告示施行後の「仕様ルート」に基づく「特定天井」の造りに関して、告示施行前の実態と比べたものです。設計用地震力を大きく見込んだうえで、斜め部材や吊りボルトの配置に一定の基準を設け、さらに接合金物は緊結することを求めたのが、特徴の一つです。地震の揺れによって生じる力に耐えられる強固な造りを目指す発想です。
一定程度のクリアランス(隙間)を確保することに関して、建築性能基準推進協会「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」では、「天井の周囲の壁などに十分な隙間(クリアランス)を設けずに近接させた場合には、衝突によって天井の一部に損傷が生じ、その結果、より大きな脱落につながる可能性がある」ことを理由に挙げています。

  告示施行前 告示施行後
(仕様ルート)
クリップ、ハンガーなどの接合金物 引っ掛け式などで地震時に滑ったり外れたりする恐れ ねじ留めなどにより緊結
吊りボルト、斜め部材などの配置 設計によりさまざま 密に配置(吊りボルトは1本/m2、強化した斜め部材は基準に従って算定される組数)
吊り長さ 設計によりさまざま 3m以下で、おおむね均一
設計用地震力(水平震度) 実態上、1G程度 最大2.2G
クリアランス(隙間) 実態上、明確に設けられていない 原則、6cm以上

※国土交通省の資料を基に作成

脱落防止は全ての天井に義務付け

天井の設計に関しては、一つ、気を付けたい点があります。それは、設計者の判断で脱落防止に向けた措置を取ることが求められているという点です。
「特定天井」に該当しない天井ではつい、脱落防止への意識が薄れがちかもしれません。しかし、「特定天井」の考え方が打ち出される以前と同じように、建築基準法施行令では全ての天井に脱落防止を義務付けています。「特定天井」に該当しないからと言って脱落防止を考えなくてよいということではないのです。
脱落防止は当然のように考える。そしてそのうえで、安全性をさらに向上させるために、万が一脱落した場合に被害を最小限に抑えるにはどのような対策を施しておくべきか、という点にまで配慮を加えるべきなのです。

「危害防止」まで考えるなら、「軽さ」に優位性

天井面の構成部材をもっと軽くする

先ほどご紹介した天井の脱落メカニズムには、注目すべき要素が潜んでいる点にお気づきでしょうか。それは、天井面を構成する部材の重さです。
直接の事故原因は、部材の損傷だったりしますが、見方を変えれば、天井面を構成する部材が重いから脱落したとも言えます。それを支える部材が、地震の揺れによって損傷を受けたから、その重さに耐え切れなくなって脱落を許したという見方です。

脱落事故はこのように強度と重さの相対的なバランスが崩れて起きるものです。強度を高めるというのが一つの対応策であるなら、重さを軽くするというのももう一つの対応策であるはずです。実際、仕上げ材の軽量化・柔軟化という方向性はかねて模索されています。
天井面を構成する部材を軽くできれば、地震時には吊り天井を支える部分に働く力を抑えることができます。設計用地震力(水平震度)に天井面を構成する部材の重さを掛け合わせたものが、それを支える部分に働く力になるからです。つまり軽ければ軽いほど、部材が損傷を受ける可能性は低くなります。脱落のリスクは、強度の面からも軽減されるわけです。
不幸にも仕上げ材が脱落してしまったとしても、軽量化・柔軟化されていれば、それが人身事故はもちろん、設備機器の破損事故につながる可能性も低いはずです。「脱落防止」に加えて「危害防止」という観点からも安心できます。

「軽量天井」の例。徳島阿波おどり空港(徳島県板野郡)

「軽量天井」の例。徳島阿波おどり空港(徳島県板野郡)

「軽量天井」の例。富士スピードウェイレストラン0RIZURU(静岡県駿東郡)

「軽量天井」の例。富士スピードウェイレストラン0RIZURU(静岡県駿東郡)

「軽量天井」なら、現場の作業負荷も軽くできる

軽量・柔軟な素材は施工性がいい

軽量化・柔軟化された素材を用いた「軽量天井」の良さは、ほかにもあります。
何より施工性がいいことです。
天井面を構成する部材として一般的な厚さ9.5mmの石こうボードなどを用いたものは、その部材の単位面積当たりの重さは6.5kg/m2程度です。これに対して「軽量天井」の天井面を構成する部材の中には、それが0.7kg/m2程度のものもみられます。ざっと10分の1程度の軽さです。とりわけ高齢化の進む施工現場では、この軽さは魅力です。
繊維系の素材であれば、加工性にも優れる、という良さもあります。
天井材を施工する場合、端部の納まりをきれいに仕上げたり設備との取り合いを調整したりする必要が生じます。そのとき、仕上げ材を例えばカッター1本で加工できれば、作業効率が上がります。軽さとともに、迅速な施工を可能にします。

大規模空間でも自由な設計可能に

「軽量天井」には、不燃、吸音、断熱など、天井に求められる基本機能を満たした製品もみられます。天井面を構成するのは軽量化・柔軟化に特化した素材であるため、音楽ホールのように音響機能が厳しく求められる空間には適しませんが、そのほかの空間には多くの建築物で使用されています。

使用例をみると、公共性の高い建築物や幼稚園の講堂など不特定多数の人が出入りするような空間が目に付きます。必ずしも「特定天井」に該当するような高さや水平投影面積を持つ大規模空間ではありませんが、利用者の安全を第一に考える場所で積極的に採用されています。
「特定天井」に該当するような大規模空間でも有用です。単位面積当たり質量が2kg/m2以下の「軽量天井」であれば「特定天井」には確実に該当しないので、それに該当するか否かという点に気を取られる必要はありません。一般天井と同じように脱落防止に目を向けながらも、その空間を本来のあり方で自由に設計することができます。
地震に負けない、安全な天井を設計するときには、「強度」とともに「軽さ」を確保することも心掛けたいものです。

「軽量天井」の例。高松市西部運動センター

「軽量天井」の例。高松市西部運動センター

「軽量天井」の例。みはら大地幼稚園(大阪府堺市)

「軽量天井」の例。みはら大地幼稚園(大阪府堺市)

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  • コラム
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    • ●「特定天井」の設計では、3つのルートで安全検証
    • ●「特定天井」への対応には、設計・施工上の課題も
    • ●自由度を確保しながら安全を実現できる選択肢とは

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