製造現場の状況や意見、要望を徹底的に把握・理解する

これまでの経験を通じて、床材選びの際に重点を置くべきことは何だと考えますか。

赤羽 事前に製造現場の状況や意見、要望を徹底的に把握・理解することにあると考えます。1回や2回ヒアリングしただけでは、正しい把握はできません。私たちが現場を実際に見て、ヒアリングだけでは拾いきれない実態を把握することも非常に重要です。
 例えば、どのような薬品を使っているのかについて現場に確認をしても、必ずしも報告が正確ではないケースがあります。それで薬品庫を見てみると、報告を受けていない薬品が置かれていたりします。また床の洗浄方法も、実際に現場を観察していると、ヒアリング内容とは異なる方法で行っていたというケースもあります。こうした食い違いを埋める上でも現場の観察は必要です。
 床材のサンプルについては、現場の皆さんに触れてもらいながら、必ず確認をしてもらっています。設計の立場と実際に使用する現場の目線とは異なるからです。現場が納得するまでこうした作業が続くので、非常に大変ではありますが、実際の製造現場に最適な床材を選ぶ上では、必須のコミュニケーションだと私たちは考えています。

「多様性」と「感謝」をコンセプトに込めた食堂のデザイン

磯分内工場では共用部の各所でも建材の選定に当たり、貴社のこだわりが反映されているとのことですが。

気密性にすぐれたエキスパンションジョイントカバー アーキウェイブEシリーズ
気密性にすぐれたエキスパンションジョイントカバー
アーキウェイブEシリーズ
エキスパンションジョイントカバー アーキウェイブEシリーズの拡大写真
エキスパンションジョイントカバー
アーキウェイブEシリーズの拡大写真

赤羽 以前からエービーシー商会さんのカタログなどを通じて、新しい建材、アイテムなどをチェックしていましたので、「これは良い」というものを積極的に取り入れました。
 特に新しい取り組みとしては、気密性にすぐれたエキスパンションジョイントカバー「アーキウェイブEシリーズ」を採用したことです。エキスパンションジョイントカバーは、地震による建物の破損を軽減させるために設ける、建物と建物の隙間を埋める建築部材ですが、従来の金属製のカバーでは、どうしても外気を遮断することができず、隙間ができてしまい、そこから虫が侵入してしまう可能性がありました。アーキウェイブEシリーズは樹脂製の蛇腹構造のカバーを使用しているため隙間ができず、虫の侵入を防げます。また、カバー内部も特別仕様にしていただきました。

この他、トイレの洗面台については、天板と洗面ボウルが一体成型されている継ぎ目のないタイプ「アソートカウンター」を採用しました。従来の継ぎ目があるものは隙間に汚れが溜まったり、カビが生えやすかったりしたので、より衛生的な製品を選ぶことにしました。洗面ボウルについても汚れや菌が溜まりやすいオーバーフローの穴が付いていないタイプを選びました。
 それから、同じく共用部ということでいえば、特に食堂にはあるコンセプトを込め、私たちの思いを反映させたデザインが投入されています。

天板と洗面ボウルが一体成型された洗面カウンター アソートカウンター
天板と洗面ボウルが一体成型された洗面カウンター
アソートカウンター
シームレス加工の一体成形なので継ぎ目に汚れがたまらず衛生的
シームレス加工の一体成形なので継ぎ目に汚れがたまらず衛生的

それはどのようなコンセプトですか。

赤羽 複数のコンセプトを持ってデザインされていますが、一つは「多様性」です。さまざまな人材が集まり、この会社を支えているというイメージを反映させたかったのです。もう一つは「感謝」です。60年以上もの間、この工場を支えて下さった地域の方々、全ての関係者の皆さんに感謝を表したいという思いを込めました。
 例えば、多様性については椅子とテーブルをあえて異なる色とデザインのものを採用し、配置することで表現しました。それでも決してバラバラな見た目にはならず、統一感が得られる工夫が施されています。また、感謝については、北海道出身のアーティストに描いていただいたチョークアートを取り入れ、複数のコンセプトを融和する存在として食堂のアクセントになっています。
 「工場は多くの人とのつながりによって支えられている」。磯分内工場では、まさにそんな思いをかたちにできたのではないかと自負しています。

「多様性」がコンセプトの食堂
「多様性」がコンセプトの食堂
写真提供:雪印メグミルク株式会社

最後になりますが、赤羽さんはこれからどんな工場を作っていきたいと考えていますか。

赤羽 食品会社として、これからもより高い清浄度、クリーンレベルを追求し、『確実に安全・安心な製品をお届けできます』と胸を張って言える工場をつくり続けたいですし、同時に働いている方々が快適に過ごせる工場づくりを目指していきたいですね。

取材日:2021.4.16

赤羽孝之(あかばねたかゆき)

■プロフィール

赤羽孝之(あかばねたかゆき)/一級建築士

1979年生まれ。2001年宮城大学事業構想学部卒業。
ハウスメーカー、設計事務所にて住宅、集合住宅、学校施設、仏閣等の設計・工事監理を経て、2010年から現職。
雪印メグミルク株式会社設備投資案件の企画立案・設計・施工監理を担当。