設計BIMデータを活用したIoTで効率運用

本社ビルの竣工時期はコロナ禍と重なり、社会全体で働き方の変革が求められるようになりました。これから100年この建物を使い続けていくためには、多様なワークスタイルへの対応をはじめ、省エネ促進などにもつながる効率的な運用や維持管理が欠かせませんね。

伊藤 100年もたせるためには、効率的・合理的な維持管理は不可欠です。
実は旧本社ビルでは維持管理にとても苦労していました。修理や更新をしようとしても以前の図面や資料が見つからない、担当者が変わって情報が伝達されていないといった状況で、効率の悪い維持管理を繰り返していました。

熊谷 維持管理を巡るそうした状況はエービーシー商会さんに限らず、年数を経た多くの建物で起こっています。
そこで、私たちが今回ご提案したのが「BuildCAN(ビルキャン)」です。簡単に言うと、IoTの技術を活かして、効率的に建物を運用・維持管理していくクラウドサービスです。

BuildCANでは、設計段階で作成するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を引き継いで、維持管理にも活用します。そこにある図面などの設計情報に、点検や修繕、改修などの履歴情報を結びつけ、建物の運用・維持管理に関する情報を一元的に管理していきます。そのため、維持管理業務の大幅な軽減と効率化を図ることが可能になります。

エービーシー商会新本社ビルで導入した「BuildCAN(ビルキャン)」のイメージ図
新本社ビルで導入した「BuildCAN(ビルキャン)」のイメージ図
基本設計から施工段階まで一元化したモデルを用いて、ビルオーナーと設計事務所、維持管理会社が三位一体で、建物を効率的に運用・維持管理していく

伊藤 導入はコストを伴いますが、100年のライフサイクルを通して考えれば意義のある投資だと思いました。IoTを活用すれば何十年経っても担当者が変わっても、常に効率的な運用や維持管理を続けていくことが可能になります。

計測データを分析して空調の効率アップも

例えば、日常的な運用にはどのようにBuildCANを活用できるのですか。

熊谷 各フロアに複数のセンサーを取り付けて、温度・湿度・二酸化炭素濃度をリアルタイムで計測しています。これらのデータを分析しフィードバックすることで、例えば空調と自然換気を効率的に切り替えるなどして、快適性を高めるのと同時に運用コストの低減を図ることができます。

近年、気候変動の影響で季節の変わり目がはっきりせず、空調を運転したほうがいいのか、自然換気にしたほうがいいのか、人間の感覚では的確な判断が難しい状況が増えています。そうしたなかでも計測するデータを駆使して効率化を図っていけます。
BuildCANで温湿度なども測ってデータを活用する取り組みは、新築ビルではこの新本社ビルが初めての採用例です。

伊藤 私たちも建築業界で活動している以上、社会に役立つ試験的な取り組みを通して貢献していきたいという思いもBuildCANを取り入れた1つの理由です。

実際、社会全体に大きな変革を求める事態が新本社ビルの竣工と時期を重ねて発生しました。新型コロナウイルスの感染拡大です。
働き方の変革が求められ、当社でもリモートワークに取り組みました。コロナ禍を受けて働き方が変わり始めたなかで、社員からは複数で参加するリモート会議ができる小部屋が欲しいという要望も出るようになっています。
今後も働き方はどんどん変わり、それに応じてオフィスに求められる機能や性能も変わっていくはずです。
この新本社ビルはこれから先100年の間に様々な形で変化が必要になっても、柔軟に対応していけるのではないかと思います。

対談風景