築30年の「大田市場」でも性能を維持

市場の床で、無機系塗り床材を使うようになったのはいつ頃からですか。

西村 私にとって初めての物流施設だった大田市場で使ったのが最初です。床材を検討していたとき、先輩の設計者から教えてもらったのが、無機系塗り床材の「フェロコンハード」でした。以来、豊洲市場まで30年ほど、物流センターなどではよく使ってきました。
建材は日進月歩で新しいものが開発されてくるので、私たち設計者は常によりよい材料を探し続けています。プロジェクトごとに最適な床材を選んでいますが、そのなかでもフェロコンハードは性能が高く、市場や物流センターで豊富な実績を重ねている床材の1つです。大田市場の床も施工から30年以上が経ちますが、大きな問題もなく当初の性能を維持しています。

水産卸売場棟 1階卸売場
水産卸売場棟 1階卸売場

豊洲市場の場合、施設内のどの床でフェロコンハードを採用したのですか。

西村 豊洲市場の機能は、大きく「水産」と「青果」に分かれます。卸売市場として使う建物は3棟あり、水産物は「水産仲卸売場棟」と「水産卸売場棟」の2棟で、青果物は「青果棟」で扱います。青果棟には、卸売場と仲卸売場が入っています。
それらの3棟すべてで、卸売場から仲卸売場、そして転配送センターまで、荷物を扱う主たる空間で、全面的にフェロコンハードを採用しました。
フェロコンハードにはいくつかの種類がありますが、ここで使ったのは骨材にセラミックを用いる「フェロコンハードC」というタイプです。

水産仲卸売場棟 1階仲卸売場
水産仲卸売場棟 1階仲卸売場

過酷な環境にも耐えるセラミック骨材配合

セラミック骨材を配合したフェロコンハードを採用したのはどのような理由からですか。

青果棟 1階仲卸売場
青果棟 1階仲卸売場

西村 床が日常的に水にさらされる厳しい環境を考慮したためです。
特に、水産の卸売場や仲卸売場では「塩水」を使います。例えば、マグロを扱う場所では、冷凍されたマグロを解凍するために、大量の塩水を、まさにぶっかけるように撒きます。エビなどの生きた水産物を扱う場所では、海水の入った水槽を置いたりします。そのため、水産の卸売場や仲卸売場は、バルブを開けばろ過海水が出る設備を備えているほどです。

フェロコンハードCを使ったのは、塩水を扱う場所だけではありません。基本的にはドライな環境である青果の卸売場でも採用しました。ドライな環境といっても、当然、汚れれば清掃するのですが、その際、床に水を撒いてブラシでゴシゴシと豪快にこすります。そのため、耐摩耗性にも優れるフェロコンハードCを使い、床の性能が長く保たれるようにしました。

商品が映える床色を使い分け

同じ無機系塗り床材でも、場所によって色が違うのには何か意味があるのですか。

西村 商品がおいしく見える色を選んでいるのです。それぞれの場所を利用する業界ごとに要望を聞いて選んだものです。
例えば、マグロを扱う場所では、床に並べるマグロが映えるということで緑系の色が選ばれました。同じ水産物でも、発泡スチロールなどに入れて塩干物を扱う場所はベージュ系の色です。
一方、青果は、市場などで標準的に使われているコンクリート系の色です。

卸売市場というのは、床がとても目立つ施設です。というのも、仲買人などが、床に置かれた商品を見定めながら、あちこち歩きまわるからです。自ずと商品と一緒に床が目に入ります。床が目立たないほど商品を詰め込む一般の倉庫などとは、床の見え方が全く異なるのです。
床の色は、照明とともに商品の見栄えを左右する重要な要素なので、豊洲市場では現場段階でモックアップをつくり、各業界に確認してもらったうえで採用しています。

水産卸売場棟 1階卸売場
水産卸売場棟 1階卸売場